の花は人|染《そ》めず、
みづからの香《か》と、おのが色。
さはれ、盛りの短《みじ》かさよ、
夕《ゆふべ》を待たで萎《しを》れゆく。

我手《わがて》の花は誰《た》れ知らん、
入日《いりひ》の後《のち》に見る如《ごと》き
うすくれなゐを頬《ほ》に残し、
淡き香《か》をもて呼吸《いき》[#ルビの「いき」は底本では「い」]すれど。

我手《わがて》の花は萎《しを》れゆく……
いと小《ささ》やかにつつましき
わが魂《たましひ》の花なれば
萎《しを》れゆくまますべなきか。


    一すぢ残る赤い路

藤《ふぢ》とつつじの咲きつづく
四月五月に知り初《そ》めて、
わたしは絶えず此処《ここ》へ来る。
森の木蔭《こかげ》を細《こま》やかに
曲つて昇る赤い路《みち》。

わたしは此処《ここ》で花の香《か》に
恋の吐息の噴《ふ》くを聞き、
広い青葉の翻《かへ》るのに
若い男のさし伸べる
優しい腕の線を見た。

わたしは此処《ここ》で鳥の音《ね》が
胸の拍子に合ふを知り、
花のしづくを美しい
蝶《てふ》と一所《いつしよ》に浴びながら、
甘い木《こ》の実を口にした。

今はあらはな冬である。
霜と、落葉
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