秋の日が夕《ゆふべ》となり、
薄むらさきに煙《けぶ》つた街の
高い家《いへ》と家《いへ》との間《あひだ》に、
今、太陽が
万年青《おもと》の果《み》のやうに真紅《しんく》に
しつとりと濡《ぬ》れて落ちて行《ゆ》く。

反対な側《がは》の屋根の上には、
港の船の帆ばしらが
どれも色硝子《いろがらす》の棒を立て並べ、
そのなかに港の波が
幻惑の彩色《さいしき》を打混《うちま》ぜて
ぎらぎらとモネの絵のやうに光る。
よく見ると、その波の半《なかば》は
無数の帆ばしらの尖《さき》から翻《ひるが》へる[#「へる」は底本では「へる。」]
細長い藍色《あゐいろ》の旗である。

あなた、窓へ来て御覧なさい、
手紙を書くのは後《あと》にしませう、
まあ、この和蘭陀《おらんだ》の海の
美《うつ》くしい入日《いりび》。
わたし達は、まだ幸ひに若くて、
かうして、アムステルダムのホテルの
五階の窓に顔を並べて、
この佳《よ》い入日《いりび》を眺めてゐるのですね。
と云《い》つて、
明日《あす》わたし達が此処《ここ》を立つてしまつたら、
復《また》と此《こ》の港が見られませうか。

あれ、直《す》ぐ窓の下の通り
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