いす》に掛けながら、
マンドリンをば膝《ひざ》にして、

「皆さん、今夜は珍しい
日本の詩人をもてなして、
※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルレエヌをば歌ひましよ。」

老爺《おやぢ》の声の止《や》まぬ間《ま》に
拍手の音が降りかかる[#「かかる」は底本では「かがる」]。

赤い毛をした、痩形《やせがた》の、
モデル女も泳ぐよに
一人《ひとり》の画家の膝《ひざ》を下《を》り、
口笛を吹く、手を挙げる。


    驟雨

驟雨《オラアジユ》は過ぎ行《ゆ》く、
巴里《パリイ》を越えて、
ブロオニユの森のあたりへ。

今、かなたに、
樺色《かばいろ》と灰色の空の
板硝子《いたがらす》を裂く雷《らい》の音、
青玉《せいぎよく》の電《いなづま》の瀑《たき》。

猶《なほ》見ゆ、遠山《とほやま》の尖《さき》の如《ごと》く聳《そば》だつ
薄墨《うすすみ》のオペラの屋根の上、
霧の奥に、
猩猩緋《しやう/″\ひ》と黄金《きん》の
光の女服《ロオブ》を脱ぎ放ち、
裸となりて雨を浴ぶる
夏の女皇《ぢよくわう》の
仄白《ほのじろ》き八月の太陽。

猶《なほ》、濡《ぬ》れわたる街の並木の
アカシヤとブ
前へ 次へ
全250ページ中202ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング