悲しければ
堪《た》へ難《がた》く悲しければ
我は云《い》ひぬ「船に乗らん。」
乗りつれど猶《なほ》さびしさに
また云《い》ひぬ「月の出を待たん。」
海は閉ぢたる書物の如《ごと》く
呼び掛くること無く、
しばらくして、円《まる》き月
波に跳《をど》りつれば云《い》ひぬ、
「長き竿《さを》の欲《ほ》し、
かの珊瑚《さんご》の魚《うを》を釣る。」
緋目高《ひめだか》
鉢のなかの
活溌《くわつぱつ》な緋目高《ひめだか》よ、
赤く焼けた釘《くぎ》で
なぜ、そんなに無駄に
水に孔《あな》を開《あ》けるのか。
気の毒な先覚者よ、
革命は水の上に無い。
涼夜《りやうや》
星が四方《しはう》の桟敷に
きらきらする。
今夜の月は支那《しな》の役者、
やさしい西施《せいし》に扮《ふん》して、
白い絹|団扇《うちは》で顔を隠し、
ほがらかに秋を歌ふ。
卑怯
その路《みち》をずつと行《ゆ》くと
死の海に落ち込むと教へられ、
中途で引返した私、
卑怯《ひけふ》な利口者《りこうもの》であつた私、
それ以来、私の前には
岐路《えだみち》と
迂路《まはりみち》とばかりが
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