《よ》置きたれば
わが乱れ髪夢にして
みづからを焼く火となりぬ。


    ロダンの家の路

真赤《まつか》な土が照り返す
だらだら坂《ざか》の二側《ふたかは》に、
アカシヤの樹《き》のつづく路《みち》。

あれ、あの森の右の方《かた》、
飴色《あめいろ》をした屋根と屋根、
あの間《あひだ》から群青《ぐんじやう》を
ちらと抹《なす》つたセエヌ川……

[#1行アキは底本ではなし]涼しい風が吹いて来る、
マロニエの香《か》と水の香《か》と。

これが日本の畑《はたけ》なら
青い「ぎいす」が鳴くであろ。
黄ばんだ麦と雛罌粟《ひなげし》と、
黄金《きん》に交ぜたる朱《しゆ》の赤さ。

誰《た》が挽《ひ》き捨てた荷車か、
眠い目をして、路《みち》ばたに
じつと立ちたる馬の影。

「 MAITRE《メエトル》 RODIN《ロダン》 の別荘は。」
問ふ二人《ふたり》より、側《そば》に立つ
KIMONO《キモノ》 姿のわたしをば
不思議と見入る田舎人《ゐなかびと》。

「メエトル・ロダンの別荘は
ただ真直《まつすぐ》に行《ゆ》きなさい、
木の間《あひだ》から、その庭の
風見車《かざみぐるま》が見え
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