オブ》に、きやしやな靴、
ツウルの野辺《のべ》の雛罌粟《コクリコ》の
赤い小路《こみち》を君と行《ゆ》き。

濡《ぬ》れよとままよ、濡《ぬ》れたらば、
わたしの帽のチウリツプ
いつそ色をば増しませう、
増さずば捨てて、代りには
野にある花を摘んで挿そ。

そして昔のカテドラル
あの下蔭《したかげ》で休みましよ。
雨が降る、降る、ほそぼそと
金《きん》の糸やら、絹の糸、
真珠の糸の雨が降る。
[#地から3字上げ](ロアルは仏蘭西南部[#「南部」は底本では「南都」]の河なり)


    セエヌ川

ほんにセエヌ川よ、いつ見ても
灰がかりたる浅みどり……
陰影《かげ》に隠れたうすものか、
泣いた夜明《よあけ》の黒髪か。

いいえ、セエヌ川は泣きませぬ。
橋から覗《のぞ》くわたしこそ
旅にやつれたわたしこそ……

あれ、じつと、紅玉《リユビイ》の涙のにじむこと……
船にも岸にも灯《ひ》がともる。
セエヌ川よ、
やつばりそなたも泣いてゐる、
女ごころのセエヌ川……


    芍薬

大輪《たいりん》に咲く仏蘭西《フランス》の
芍薬《しやくやく》こそは真赤《まつか》なれ。
枕《まくら》にひと夜
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