池を繞《めぐ》りて、
靄《もや》の奥へ影となりて遠ざかる、
あはれ、たそがれの森の路《みち》……
[#地から4字上げ](一九一二年巴里にて)
ツウル市にて
水に渇《かつ》えた白緑《はくろく》の
ひろい麦生《むぎふ》を、すと斜《はす》に
翔《かけ》る燕《つばめ》のあわてもの、
何《なに》の使《つかひ》に急ぐのか、
よろこびあまる身のこなし。
続いて、さつと、またさつと、
生《なま》あたたかい南風《みなみかぜ》
ロアルを越して吹く度《たび》に、
白楊《はくやう》の樹《き》がさわさわと
待つてゐたよに身を揺《ゆす》る。
河底《かはぞこ》にゐた家鴨《あひる》らは
岸へ上《のぼ》つて、アカシヤの
蔭《かげ》にがやがや啼《な》きわめき、
燕《つばめ》は遠く去つたのか、
もう麦畑《むぎばた》に影も無い。
それは皆皆よい知らせ、
暫《しばら》くの間《ま》に風は止《や》み、
雨が降る、降る、ほそぼそと
金《きん》の糸やら絹の糸[#「絹の糸」は底本では「絹糸の」]、
真珠の糸の雨が降る。
嬉《うれ》しや、これが仏蘭西《フランス》の
雨にわたしの濡《ぬ》れ初《はじ》め。
軽い婦人服《ロ
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