《はるなつ》の踊子《をどりこ》よ、蝶《てふ》よ。
かぼそき路《みち》を行《ゆ》きつつ、猶《なほ》我等は
しづかに語らめ、しづかに。

おお、此処《ここ》に、岩に隠れて
ころころと鳴る泉あり、
水の歌ふは我等が為《た》めならん、
君よ、今は語りたまふな。


    巴里郊外

たそがれの路《みち》、
森の中に一《ひと》すぢ、
呪《のろ》はれた路《みち》、薄白《うすじろ》き路《みち》、
靄《もや》の奥へ影となり遠ざかる、
あはれ死にゆく路《みち》。

うち沈みて静かな路《みち》。
ひともと[#「ひともと」は底本では「もともと」]何《な》んの木であらう、
その枯れた裸の腕《かひな》を挙げ、
小暗《をぐら》きかなしみの中に、
心疲れた路《みち》を見送る。

たそがれの路《みち》の別れに、樺《かば》の木と
榛《はん》の森は気が狂《ふ》れたらし、
あれ、谺響《こだま》が返す幽《かす》かな吐息……
幽《かす》かな冷たい、調子はづれの高笑ひ……
また幽《かす》かな啜《すゝ》り泣き……

蛋白石色《オパアルいろ》の珠数珠《じゆずだま》の実の
頸飾《くびかざり》を草の上に留《とゞ》め、
薄墨色の音せぬ古
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