夫婦がわたしを待つてゐた。
薄暮《はくぼ》
ルウヴル宮《きゆう》[#ルビの「きゆう」は底本では「きう」]の正面も、
中庭にある桃色の
凱旋門《がいせんもん》もやはらかに
紫がかつて暮れてゆく。
花壇の花もほのぼのと
赤と白とが薄くなり、
並んで通る恋人も
ひと組ひと組暮れてゆく。
君とわたしも石段に
腰掛けながら暮れてゆく。
※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルサイユの逍遥
※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルサイユの宮《みや》の
大理石の階《かい》を降《くだ》り、
後庭《こうてい》の六月の
花と、香《か》と、光の間《あひだ》を過ぎて
われ等《ら》三人《みたり》の日本人は
広大なる森の中に入《い》りぬ。
二百《にびやく》年を経たる※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》の大樹《だいじゆ》は
明るき緑の天幕《てんと》を空に張り、
その下《もと》に紫の苔《こけ》生《お》ひて、
物古《ものふ》りし石の卓一つ
匐《は》ふ蔦《つた》の黄緑《わうりよく》の若葉と
薄赤き蔓《つる》とに埋《うづ》まれり。
二人《ふたり》の男は石の卓に肘《ひぢ》つきて
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