は》くてならぬ。
広場へ出るが最期
二三歩で
轢《ひ》き倒されて傷をするか、
轢《ひ》き殺されてしまふかするであらう……
この時、わたしに、突然、
何《なん》とも言ひやうのない
叡智と威力とが内《うち》から湧《わ》いて、
わたしの全身を生きた鋼鉄の人にした。
そして日傘《パラソル》と嚢《サツク》とを提《さ》げたわたしは
決然として、馬車、自動車、
乗合馬車、乗合自動車の渦の中を真直《まつすぐ》に横ぎり、
あわてず、走らず、
逡巡《しゆんじゆん》せずに進んだ。
それは仏蘭西《フランス》の男女の歩《あ》るくが如《ごと》くに歩《あ》るいたのであつた。
そして、わたしは、
わたしが斯《か》うして悠悠《いういう》と歩《あ》るけば、
速度の疾《はや》いいろんな怖《おそ》ろしい車が
却《かへ》つて、わたしの左右に
わたしを愛して停《とゞ》まるものであることを知つた。
わたしは新しい喜悦に胸を跳《をど》らせながら、
斜めにバルザツク街《まち》へ入《はひ》つて行つた。
そして裁縫師《タイユウル》の家《いへ》では
午後二時の約束通り、
わたしの繻子《しゆす》のロオヴの仮縫《かりぬひ》を終つて
若い主人
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