し、若き日を
猶《なほ》夢を見るこの母は
汝《な》が父をこそ頼むなれ。
巴里より葉書の上に
巴里《パリイ》に著《つ》いた三日目に
大きい真赤《まつか》な芍薬《しやくやく》を
帽の飾りに附《つ》けました。
こんな事して身の末《すゑ》が
どうなるやらと言ひながら。
エトワアルの広場
土から俄《には》かに
孵化《ふくわ》して出た蛾《が》のやうに、
わたしは突然、
地下電車《メトロ》から地上へ匐《は》ひ上がる。
大きな凱旋門《がいせんもん》がまんなかに立つてゐる。
それを繞《めぐ》つて
マロニエの並木が明るい緑を盛上げ、
そして人間と、自動車と、乗合馬車と、
乗合自動車との点と塊《マツス》が
命ある物の
整然とした混乱と
自主独立の進行とを、
断間《たえま》無しに
八方《はつぱう》の街から繰出し、
此処《ここ》を縦横《じゆうわう》[#ルビの「じゆうわう」は底本では「じうわう」]に縫つて、
断間《たえま》無しに
八方《はつぱう》の街へ繰込んでゐる。
おお、此処《ここ》は偉大なエトワアルの広場……
わたしは思はずじつと立ち竦《すく》む。
わたしは思つた、――
これで
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