君が越えたる浪形《なみがた》に
流れて落ちるわが涙。
さは云《い》へ、女のたのしみは、
わが繍《ぬ》ふ罌粟《けし》の「夢」にさへ
花をば揺する風に似て、
君が気息《いき》こそ通《かよ》ふなれ。
旅に立つ
いざ、天《てん》の日は我がために
金《きん》の車をきしらせよ。
颶風《あらし》の羽《はね》は東より
いざ、こころよく我を追へ。
黄泉《よみ》の底まで、泣きながら、
頼む男を尋ねたる
その昔にもえや劣る。
女の恋のせつなさよ。
晶子や物に狂ふらん、
燃ゆる我が火を抱きながら、
天《あま》がけりゆく、西へ行《ゆ》く、
巴里《パリイ》の君へ逢《あ》ひに行《ゆ》く。
[#地から4字上げ](一九一二年五月作)
子等に
あはれならずや、その雛《ひな》を
荒巌《あらいは》の上の巣に遺《のこ》し、
恋しき兄鷹《せう》を尋ねんと、
颶風《あらし》の空に下《お》りながら、
雛《ひな》の啼《な》く音《ね》にためらへる
若き女鷹《めだか》の若《も》しあらば。――
それは窶《やつ》れて遠く行《ゆ》く
今日《けふ》の門出の我が心。
いとしき児《こ》らよ、ゆるせかし、
しばし待てか
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