イ》の大路《おほぢ》を行《ゆ》く君は
わたしの外《ほか》に在るとても、
わたしは君の外《ほか》に無い、
君の外《ほか》には世さへ無い。
君よ、わたしの遣瀬《やるせ》なさ、
三月《みつき》待つ間《ま》に身が細り、
四月《よつき》の今日《けふ》は狂ひ死《じ》に
するかとばかり気が滅入《めい》る。
人並ならぬ恋すれば、
人並ならぬ物おもひ。
其《そ》れもわたしの幸福《しあはせ》と
思ひ返せど気が滅入《めい》る。
昨日《きのふ》の恋は朝の恋、
またのどかなる昼の恋。
今日《けふ》する恋は狂ほしい
真赤《まつか》な入日《いりひ》の一《ひと》さかり。
とは思へども気が滅入《めい》る。
若《も》しもそのまま旅に居て
君帰らずばなんとせう。
わたしは矢張《やはり》気が滅入《めい》る。
図案
久しき留守に倚《よ》りかかる
君が手なれの竹の椅子《いす》。
とる針よりも、糸よりも、
女ごころのかぼそさよ。
膝《ひざ》になびいた一《ひと》ひらの
江戸紫に置く繍《ぬひ》は、
ひまなく恋に燃える血の
真赤な胸の罌粟《けし》の花。
花に添ひたる海の色、
ふかみどりなる罌粟《けし》の葉は、
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