き蝋燭《らふそく》の銀の光を高くさしかざせば、
滴《したゝ》る蝋《らふ》のしづく涙と共に散りて、
黄なる睡蓮《すいれん》の花となり、又しろき鱗《うろこ》の魚《うを》となりぬ。
かかる夢見しは覚めたる後《のち》も清清《すがすが》し。

[#1行アキは底本ではなし]されど、又、かなしきは或夜《あるよ》の夢なりき。
君が大船《おほふね》の窓の火ややに消えゆき、
唯《た》だ一つ残れる最後の薄き光に、
われ外《そと》より硝子《がらす》ごしにさし覗《のぞ》けば、
われならぬ面《おも》やつれせしわが影既に内《うち》にありて、
あはれ君が棺《ひつぎ》の前にさめざめと泣き伏すなり。
「われをも内《うち》に入《い》れ給《たま》へ」と叫べど、
外《そと》は波風の音おどろしく、
内《うち》はうらうへに鉛の如《ごと》く静かに重く冷たし。
泣けるわが影は
氷の如《ごと》く、霞《かすみ》の如《ごと》く、透《す》きとほる影の身なれば、
わが声を聴かぬにやあらん。

われは胸も裂くるばかり苛立《いらだ》ち、
扉の方《かた》より馳《は》せ入《い》らんと、
三《み》たび五《いつ》たび甲板《でつき》の上を繞《めぐ》れど、

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