7]田丸《あつたまる》の船梯子《ふなばしご》の高さよ。
ああ君と我とは早くも千里|万《ばん》里の差………
わが小蒸汽《こじようき》は堪《た》へかねし如《ごと》く終《つひ》に啜《すゝ》り泣くに………
一声《いつせい》、二声《にせい》………
千百《せんびやく》の悲鳴をほつと吐息に換へ、
「ああなつかしや」と心細きわが魂《たましひ》の、
臨終《いまは》の念の如《ごと》くに打洩《うちもら》す※[#「執/れっか」、232−上−1]《あつ》き涙の白金《はくきん》の幾滴《いくてき》………
君が船は無言のままに港を出《い》づ。
船と船、人人《ひとびと》は叫びかはせど、
かなたに立てる君と此処《ここ》に坐《すわ》れる我とは、
静かに、静かに、二つの石像の如《ごと》く別れゆく……
[#地から4字上げ](一九一一年十一月十一日神戸にて)
別後《べつご》
わが夫《せ》の君海に浮《うか》びて去りしより、
わが見る夜毎《よごと》の夢、また、すべて海に浮《うか》ぶ。
或夜《あるよ》は黒きわたつみの上、
片手に乱るる裾《すそ》をおさへて、素足のまま、
君が大船《おほふね》の舳先《へさき》に立ち、
白
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