ぶ》く艶《つや》を消してゐる。
そして所所《ところどころ》に
幾つかの
不格好《ぶかくかう》な胴像《トルソ》が
どれも痛痛《いたいた》しく
手を失ひ、
脚《あし》を断たれて、
真白《まつしろ》な胸に
黒い血をにじませながら立つてゐる。
それは枝を払はれたまま、
じつと、いきんで、
死なずに春を待つてゐる
太い櫟《くぬぎ》の幹である。
たとへば私達のやうな者である。
雪の上の鴉
鴉《からす》、鴉《からす》、
雪の上の鴉《からす》、
近い処に一羽《いちは》、
少し離れて十四五|羽《は》。
鴉《からす》、鴉《からす》、
雪の上の鴉《からす》、
半紙の上に黒く
大人《おとな》が書いた字のやうだ。
鴉《からす》、鴉《からす》、
雪の上の鴉《からす》、
「かあ」と一羽《いちは》が啼《な》けば
寂《さび》しく「かあ」と皆が啼《な》く。
鴉《からす》、鴉《からす》、
雪の上の鴉《からす》、
餌《ゑさ》が無いのでじいつと
動きもせねば飛びもせぬ。
[#ここで段組終わり]
[#改丁]
[#ページの左右中央から]
西土往来
(欧洲旅行前及び旅中の詩廿九章)
前へ
次へ
全250ページ中180ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング