たんけん》を執《と》りて、
ただ一撃に刺さばや、
憎き、憎き冬よ、その背を。
白樺
冬枯《ふゆがれ》の裾野《すその》に
ひともと
しら樺《かば》の木は光る。
その葉は落ち尽《つく》して、
白き生身《いきみ》を
女性《によしやう》の如《ごと》く
師走《しはす》の風に曝《さら》し、
何《なに》を祈るや、独り
双手《もろで》を空に張る。
日は今、遥《はる》かに低き
うす紫の
遠山《とほやま》に沈み去り、
その余光《よくわう》の中に、
しら樺《かば》の木は
悲しき殉教者の血を、
その胸より、
たらたらと
落葉《おちば》の上に流す。
雪の朝
夜《よ》が明けた。
風も、大気も、
鉛色《なまりいろ》の空も、
野も、水も
みな気息《いき》を殺してゐる。
唯《た》だ見るのは
地上一尺の大雪……
それが畝畝《うね/\》の直線を
すつかり隠して、
いろんな三角の形《かたち》を
大川《おほかは》に沿うた
歪形《いびつ》な畑《はたけ》に盛り上げ、
光を受けた部分は
板硝子《いたがらす》のやうに反射し、
蔭《かげ》になつた所は
粗悪な洋紙《やうし》を撒《ま》きちらしたやうに
鈍《に
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