では「胥白石」]の肌を汗ばませぬ。

ああ、くわりんの果《み》は
冬と風とにも亡《ほろぼ》されず、
心と、肉と、晶液《しやうえき》と、
内なる尊《たふと》き物皆を香《か》として
永劫《えいごふ》[#ルビの「えいごふ」は底本では「えいがふ」]の間《あひだ》にたなびき行《ゆ》く。


    冬の一日

雪が止《や》んだ、
太陽が笑顔を見せる。
庭に積《つも》つた雪は
硝子《がらす》越しに
ほんのりと薔薇《ばら》色をして、
綿のやうに温かい。

小作《こづく》りな女の、
年よりは若く見える、
髷《まげ》を小さく結《ゆ》つた、
品《ひん》の好《い》い[#「好い」は底本では「如い」]お祖母《ばあ》さんは、
古風な糸車《いとぐるま》の前で
黙つて紡《つむ》いでゐる。

太陽が部屋へ入《はひ》つて、
お祖母《ばあ》さんの左の手に
そつと唇を触れる。
お祖母《ばあ》さんは何時《いつ》の間《ま》にか
美《うつ》くしい薔薇《ばら》色の雪を
黙つて紡《つむ》いでゐる。


    冬を憎む歌

ああ憎き冬よ、
わが家《いへ》のために、冬は
恐怖《おそれ》なり、咀《のろ》ひなり、
闖入者《ちんにふしや》なり
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