》ぶ。
公園の噴水よ、
せめてお前でも歌へばいいのに、
狐色《きつねいろ》の落葉《おちば》の沈んだ池へ
さかさまに大理石の身を投げて、
お前が第一に感激を無くしてゐる。


    冬の木

十一月の灰色の
くもり玻璃《がらす》の空のもと、
唸《うな》りを立てて、荒《あら》らかに、
ばさり、ばさりと鞭《むち》を振る
あはれ木枯《こがらし》、汝《な》がままに、

緑青《ろくしやう》の蝶《てふ》、紅《あか》き羽《はね》、
琥珀《こはく》と銀の貝の殻《から》、
黄なる文反古《ふみほご》、錆《さ》びし櫛《くし》、
とばかり見えて、はらはらと
木《こ》の葉は脆《もろ》く飛びかひぬ。

あはれ、今はた、木《こ》の間《ま》には
四月五月の花も無し、
若き緑の枝も無し、
香《か》も夢も無し、微風《そよかぜ》の
囁《さゝや》くあまき声も無し。

かの楽しげに歌ひつる
小鳥のむれは何処《いづこ》ぞや。
鳥は啼《な》けども、刺す如《ごと》き
百舌《もず》と鵯鳥《ひよどり》、しからずば
枝を踏み折る山鴉《やまがらす》。

諸木《もろき》は何《なに》を思へるや、
銀杏《いてふ》、木蓮《もくれん》、朴《ほゝ》、楓
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