電灯
狭い書斎の電灯よ、
紐《ひも》で縛られ、さかさまに
吊《つ》り下げられた電灯よ、
わたしと共に十二時を
越してますます目が冴《さ》える
不眠症なる電灯よ。
わたしの夜《よる》の太陽よ、
たつた一つの電灯よ、
わたしの暗い心から
吐息と共に込み上げる
思想の水を導いて
机にてらす電灯よ。
そなたの顔も青白い、
わたしの顔も青白い。
地下室に似る沈黙に、
気は張り詰めて居ながらも、
ちらと戦《わなゝ》く電灯よ、
わたしも稀《まれ》に身をゆする。
夜《よる》は冷たく更けてゆく。
何《なに》とも知らぬ不安さよ、
近づく朝を怖《おそ》れるか、
才《さい》の終りを予知するか、
女ごころと電灯と
じつと寂《さび》しく聴き入《い》れば、
死を隠したる片隅の
陰気な蔭《かげ》のくらがりに、
柱時計の意地わるが
人の仕事と命とに
差引《さしひき》つけて、こつ、こつと
算盤《そろばん》を弾《はじ》く球《たま》の音《おと》。
腐りゆく匂ひ
壺《つぼ》には、萎《しぼ》みゆくままに、
取換《とりか》へない白茶色《しらちやいろ》の薔薇《ばら》の花。
その横の廉物《やすもの》の仏蘭西
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