ふ。


    晩秋

路《みち》は一《ひと》すぢ、並木路、
赤い入日《いりひ》が斜《はす》に射《さ》し、
点、点、点、点、朱《しゆ》の斑《まだら》……
桜のもみぢ、柿《かき》もみぢ、
点描派《ポアンチユリスト》の絵が燃える。

路《みち》は一《ひと》すぢ、さんらんと
彩色硝子《さいしきガラス》に照《てら》された
廊《らう》を踏むよな酔《ゑひ》ごこち、
そして心《しん》からしみじみと
涙ぐましい気にもなる。

路《みち》は一《ひと》すぢ、ひとり行《ゆ》く
わたしのためにあの空も
心中立《しんぢゆうだて》[#ルビの「しんぢゆうだて」は底本では「しんぢうだて」]に毒を飲み、
臨終《いまは》のきはにさし伸べる
赤い入日《いりひ》の唇か。

路《みち》は一《ひと》すぢ、この先に
サツフオオの住む家《いへ》があろ。
其処《そこ》には雪が降つて居よ。
出て行《ゆ》ことして今一度
泣くサツフオオが目に見える。

路《みち》は一《ひと》すぢ、秋の路《みち》、
物の盛りの尽きる路《みち》、
おお美《うつ》くしや、急ぐまい、
点、点、点、点、しばらくは
わたしの髪も朱《しゆ》の斑《まだら》……


  
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