る易者かな、
我手《わがて》を見んと求むるは。
そなたに告げん、我がために
占ふことは遅れたり。
かの世のことは知らねども、
わがこの諸手《もろで》、この世にて、
上なき幸《さち》も、わざはひも、
取るべき限り満たされぬ。


    甥

甥《をひ》なる者の歎くやう、
「二十《はたち》越ゆれど、詩を書かず、
踊《をどり》を知らず、琴弾かず、
これ若き日と云《い》ふべきや、
富む家《いへ》の子と云《い》ふべきや。」
これを聞きたる若き叔母、
目の盲《し》ひたれば、手探りに、
甥《をひ》の手を執《と》り云《い》ひにけり、
「いと好《よ》し、今は家《いへ》を出よ、
寂《さび》しき我に似るなかれ。」


    花を見上げて

花を見上げて「悲し」とは
君なにごとを云《い》ひたまふ。
嬉《うれ》しき問ひよ、さればなり、
春の盛りの短くて、
早たそがれの青病《クロシス》が、
敏《さと》き感じにわななける
女の白き身の上に
毒の沁《し》むごと近づけば。


    我家の四男

おもちやの熊《くま》を抱く時は
熊《くま》の兄とも思ふらし、
母に先だち行《ゆ》く時は
母より路《みち》を知りげなり。
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