郊外
けたたましく
私を喚《よ》んだ百舌《もず》は何処《どこ》か。
私は筆を擱《お》いて門《もん》を出た。
思はず五六|町《ちやう》を歩いて、
今丘の上に来た。
見渡す野のはてに
青く晴れた山、
日を薄桃色《うすもゝいろ》に受けた山、
白い雲から抜け出して
更に天を望む山。
今朝《けさ》の空はコバルトに
少し白を交ぜて濡《ぬ》れ、
その下の稲田《いなだ》は
黄金《きん》の総《ふさ》で埋《うづ》まり、
何処《どこ》にも広がる太陽の笑顔。
そよ風も悦《よろこ》びを堪《こら》へかね、
その静かな足取《あしどり》を
急に踊りの振《ふり》に換へて、
またしても円《まろ》く大きく
芒《すゝき》の原を滑《す》べる。
縦横《たてよこ》の路《みち》は
幾すぢの銀を野に引き、
或《ある》ものは森の彼方《かなた》に隠れ、
或《ある》ものは近き村の口から
荷馬車と共に出て来る。
ああ野は秋の最中《もなか》、
胸|一《いつ》ぱいに空気を吸へば、
人を清く健《すこ》[#ルビの「すこ」は底本では「すこや」]やかにする
黒土《くろつち》の香《か》、草の香《か》、
穀物の香《か》、水の香《か》。
私は
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