帳《かや》に臥《ふ》しながら、
夜《よ》の更けゆけば水色の
麻の軽《かろ》きを襟近く
打被《うちかづ》くまで涼しかり。
上の我子《わがこ》は二人《ふたり》づれ
大人《おとな》の如《ごと》く遠く行《ゆ》き、
夏の休みを陸奥《みちのく》の
山辺《やまべ》の友の家《いへ》に居て
今朝《けさ》うれしくも帰りきぬ。
休みのはてに己《おの》が子と
別るる鄙《ひな》の親達は
夏の尽くるや惜しからん、
都に住めるしあはせは
秋の立つにも身に知らる。
貧しけれども、わが家《いへ》の
今日《けふ》の夕食《ゆふげ》の楽しさよ、
黒川郡《くろがはぐん》の山辺《やまべ》にて
我子《わがこ》の採《と》れる百合《ゆり》の根を
我子《わがこ》と共にあぢはへば。
初秋の月
世界はいと静かに
涼しき夜《よる》の帳《とばり》に睡《ねむ》り、
黄金《こがね》の魚《うを》一つ
その差延べし手に光りぬ、
初秋《はつあき》の月。
紫水晶《むらさきずゐしやう》の海は
黒き大地《だいぢ》に並び夢みて、
一つの波は彼方《かなた》より
柔かき節奏《ふしどり》に
その上を馳《は》せ来《きた》る。
波は次第に高まる、
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