なると、
いろんな蜻蛉《とんぼ》が止まりに来る。
天井の隅や
額《がく》のふちで、
かさこそと
銀の響《ひゞき》の羽《はね》ざはり……
わたしは俯向《うつむ》いて
物を書きながら、
心のなかで
かう呟《つぶや》く、
其処《そこ》には恋に疲れた天使達、
此処《ここ》には恋に疲れた女|一人《ひとり》。


    夏よ

夏、真赤《まつか》な裸をした夏、
おまへは何《なん》と云《い》ふ強い力で
わたしを圧《おさ》へつけるのか。
おまへに抵抗するために、
わたしは今、
冬から春の間《あひだ》に貯《た》めた
命の力を強く強く使はされる。

夏、おまへは現実の中の
※[#「執/れっか」、197−上−4]《ねつ》し切つた意志だ。
わたしはおまへに負けない、
わたしはおまへを取入《とりい》れよう、
おまへに騎《の》つて行《い》かう、
太陽の使《つかひ》、真昼《まひる》の霊、
涙と影を踏みにじる力者《りきしや》。

夏、おまへに由《よ》つてわたしは今、
特別な昂奮《かうふん》が
偉大な情※[#「執/れっか」、197−上−12]《じやうねつ》と怖《おそろ》しい直覚とを以《もつ》て
わたしの脈管《みやくく
前へ 次へ
全250ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング