間《ま》の泉の夜《よ》となる哀《かな》しさ、
笛、笛、笛、笛、我等も哀《かな》しき笛を吹く。


    草の葉

草の上に
更に高く、
唯《た》だ一《ひと》もと、
二尺ばかり伸びて出た草。

かよわい、薄い、
細長い四五|片《へん》の葉が
朝涼《あさすゞ》の中に垂れて描《ゑが》く
女らしい曲線。

優しい草よ、
はかなげな草よ、
全身に
青玉《せいぎよく》の質《しつ》を持ちながら、
七月の初めに
もう秋を感じてゐる。

青い仄《ほの》かな悲哀、
おお、草よ、
これがそなたのすべてか。


    蛇

蛇《へび》よ、そなたを見る時、
わたしは二元論者になる。
美と醜と
二つの分裂が
宇宙に並存《へいぞん》するのを見る。
蛇よ、そなたを思ふ時、
わたしの愛の一辺《いつぺん》が解《わか》る。
わたしの愛はまだ絶対のもので無い。
蛮人《ばんじん》と、偽善者と、
盗賊と、奸商《かんしやう》と、
平俗な詩人とを恕《ゆる》すわたしも、
蛇よ、そなたばかりは
わたしの目の外《ほか》に置きたい。


    蜻蛉《とんぼ》

木の蔭《かげ》になつた、青暗《あおぐら》い
わたしの書斎のなかへ、
午後に
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