あはせ》だ、
いざ、今日《けふ》此頃《このごろ》を語らはん、
来てとまれ、
わたしの左の白い腕《かひな》を借《か》すほどに。
上総の勝浦
おお美《うつ》くしい勝浦、
山が緑の
優しい両手を伸ばした中に、
海と街とを抱いてゐる。
此処《ここ》へ来ると、
人間も、船も、鳥も、
青空に掛る円《まろ》い雲も、
すべてが平和な子供になる。
太洋《たいやう》で荒れる波も、
この浜の砂の上では、
柔かな鳴海《なるみ》絞りの袂《たもと》を
軽《かろ》く拡げて戯れる。
それは山に姿を仮《か》りて
静かに抱く者があるからだ。
おお美《うつ》くしい勝浦、
此処《ここ》に私は「愛」を見た。
木《こ》の間《ま》の泉
木《こ》の間《ま》の泉の夜《よ》となる哀《かな》しさ、
静けき若葉の身ぶるひ、夜霧の白い息。
木《こ》の間《ま》の泉の夜《よ》となる哀《かな》しさ、
微風《そよかぜ》なげけば、花の香《か》ぬれつつ身悶《みもだ》えぬ。
木《こ》の間《ま》の泉の夜《よ》となる哀《かな》しさ、
黄金《こがね》のさし櫛《くし》、月姫《つきひめ》うるみて彷徨《さまよ》へり。
木《こ》の
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