《うらは》の海の色。
青玉色《せいぎよくいろ》に透《す》きとほり、
地にへばりつく或《あ》る葉には
緑を帯びた仏蘭西《フランス》の
牡蠣《かき》の薄身《うすみ》を思ひ出し、
なまあたたかい曇天《どんてん》に
細かな砂の灰が降り、
南の風に草原《くさはら》が
のろい廻渦《うねり》を立てる日は、
六《む》坪ばかりの庭ながら
紅海沖《こうかいおき》が目に浮《うか》ぶ。
暴風
洗濯物を入れたまま
大きな盥《たらひ》が庭を流れ、
地が俄《には》かに二三|尺《じやく》も低くなつたやうに
姫向日葵《ひめひまはり》の鬱金《うこん》の花の尖《さき》だけが見え、
ごむ手毬《でまり》がついと縁の下から出て、
潜水服を著《き》たお伽噺《とぎばなし》の怪物の顧※[#「目+丐」、192−上−11]《みえ》をしながら
腐つた紅《あか》いダリアの花に取り縋《すが》る。
五六枚しめた雨戸の間間《あひだあひだ》から覗《のぞ》く家族の顔は
どれも栗毛《くりげ》の馬の顔である。
雨はますます白い刄《やいば》のやうに横に降る。
わたしは颶風《あらし》にほぐれる裾《すそ》を片手に抑《おさ》へて、
泡立つて行《ゆ》
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