話しごゑ、
そして近づく馬の※[#「足へん+鉋のつくり」、第3水準1−92−34]《だく》。
小高《こだか》い岡《をか》に突き当り
路《みち》は左へ一廻《ひとめぐ》り。
私は岡《をか》へ駈《か》け上がる。
下を通るは、馬の背に
男のやうな帽を被《き》た
亜米利加《アメリカ》婦人の二人《ふたり》づれ。
緑を伸べた地平には、
遠い工場《こうば》の煙突が
赤い点をば一つ置く。
夏日礼讃
ああ夏が来た。この昼の
若葉を透《とほ》す日の色は
ほんに酒ならペパミント、
黄金《きん》と緑を振り注ぎ、
広く障子を開《あ》けたれば、
子供のやうな微風《そよかぜ》が
衣桁《いかう》に掛けた友染《いうせん》の
長い襦袢《じゆばん》に戯れる。
ああ夏が来た。こんな日は
君もどんなに恋しかろ、
巴里《パリイ》の広場、街並木、
珈琲店《カツフエ》[#「珈琲店」は底本では「琲珈店」]の前庭《テラス》、Boi《ボワ》 の池。
私も筆の手を止めて、
晴れた Seine《セエヌ》 の濃紫《こむらさき》
今その水が目に浮《うか》び、
じつと涙に濡《ぬ》れました。
ああ夏が来た、夏が来た。
二人《ふた
前へ
次へ
全250ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング