《はれま》に見上ぐれば、
綿より脆《もろ》く、白髪《しらが》より
細く、はかなく、折折《をりをり》に
たんぽぽの穂がふわと散る。


    五月雨と私

ああ、さみだれよ、昨日《きのふ》まで、
そなたを憎いと思つてた。
魔障《ましやう》の雲がはびこつて
地を亡《ほろ》ぼそと降るやうに。

もし、さみだれが世に絶えて
唯《た》だ乾く日のつづきなば、
都も、山も、花園も、
サハラの沙《すな》となるであろ。

恋を命とする身には
涙の添ひてうらがなし。
空を恋路にたとへなば、
そのさみだれはため涙。

降れ、しとしとと、しとしとと、
赤をまじへた、温かい
黒の中から、さみだれよ、
網形《あみがた》に引け、銀の糸。

ああ、さみだれよ、そなたのみ、
わが名も骨も朽ちる日に、
埋《うも》れた墓を洗ひ出し、
涙の手もて拭《ぬぐ》ふのは。


    隅田川

隅田川、
隅田川、
いつ見ても
土の色して
かき濁り、
黙《もく》して流《なが》る。

今は我身《わがみ》に
引きくらべ、
土より出たる
隅田川、
隅田川、
ひとしく悲し。

行《ゆ》く人は
悪を離れず、
行《ゆ》く水は
土を離れず。
隅田
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