《ゆ》く。
そして神田の四つ辻《つじ》に、
下駄を切らして俯《うつ》向いた
わたしの顔を憎らしく
覗《のぞ》いて遊ぶ南風《みなみかぜ》。
五月の海
おお、海が高まる、高まる。
若い、やさしい五月《ごぐわつ》の胸、
群青色《ぐんじやういろ》の海が高まる。
金岡《かなをか》の金泥《こんでい》の厚さ、
光悦《くわうえつ》の線の太さ、
寫樂《しやらく》の神経のきびきびしさ、
其等《それら》を一つに融《と》かして
音楽のやうに海が高まる。
さうして、その先に
美しい海の乳首《ちゝくび》と見える
まんまるい一点の紅《あか》い帆。
それを中心に
今、海は一段と緊張し、
高まる、高まる、高まる。
おお、若い命が高まる。
わたしと一所《いつしよ》に海が高まる。
チユウリツプ
今年も五月《ごぐわつ》、チユウリツプ、
見る目まばゆくぱつと咲く、
猩猩緋《しやう/″\ひ》に咲く、黄金《きん》に咲く、
紅《べに》と白とをまぜて咲く、
人に構はず派手に咲く。
五月雨
今日《けふ》も冷たく降る雨は
白く尽きざる涙にて、
世界を掩《おほ》ふ梅雨空《つゆぞら》は
重たき繻子
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