の切崖《きりぎし》が
煉瓦色《れんがいろ》の肌を出し、
下には海に沈んだ円石《まろいし》が
浅瀬の水を透《とほ》して
亀《かめ》の甲のやうに並んでゐる。

沖の初島《はつしま》の方から
折折《をりをり》に風が吹く。
その度に、近い所で
小《ち》さい浪頭《なみがしら》がさつと立ち、
石垣の椿《つばき》が身を揺《ゆす》つて
落ちた花がぼたりと水に浮く。


    田舎の春

正月|元日《ぐわんじつ》、里《さと》ずまひ、
喜びありて眺むれば、
まだ木枯《こがらし》はをりをりに
向ひの丘を過ぎながら
高い鼓弓《こきふ》を鳴らせども、
軒端《のきは》の日ざし温かに、
ちらり、ほらりと梅が咲く。

上には晴れた空の色、
濃いお納戸《なんど》の支那繻子《しなじゆす》に、
光、光と云《い》ふ文字を
銀糸《ぎんし》で置いた繍《ぬひ》の袖《そで》、
春が著《き》て来た上衣《うはぎ》をば
枝に掛けたか、打香《うちかを》り、
ちらり、ほらりと梅が咲く。


    太陽出現

薄暗がりの地平に
大火の祭。
空が焦げる、
海が燃える。

珊瑚紅《さんごこう》から
黄金《わうごん》の光へ、
眩《まば》ゆくも変り
前へ 次へ
全250ページ中121ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング