《よ》ぢ登り、
一つの路《みち》は暗き大野の
扁柏《いとすぎ》の森の奥に迷ひ、
一つの路《みち》は河に沿ひて
平沙《へいしや》の上を滑《すべ》り行《ゆ》けり。

われは幾度《いくたび》か引返さんとしぬ、
来《こ》し方《かた》の道には
人間《にんげん》三月《さんぐわつ》の花開き、
紫の霞《かすみ》、
金色《こんじき》の太陽、
甘き花の香《か》、
柔かきそよ風、
われは唯《た》だ幸ひの中に酔《ゑ》ひしかば。

されど今は行《ゆ》かん、
かの高き石山《いしやま》の彼方《かなた》、
あはれ其処《そこ》にこそ
猶《なほ》我を生かす路《みち》はあらめ。
わが願ふは最早《もはや》安息にあらず、
夢にあらず、思出《おもひで》にあらず、
よしや、足に血は流るとも、
一歩一歩、真実へ近づかん。


    森の大樹

ああ森の巨人、
千年の大樹《だいじゆ》よ、
わたしはそなたの前に
一人《ひとり》のつつましい自然崇拝教徒である。

そなたはダビデ王のやうに
勇ましい拳《こぶし》を上げて
地上の赦《ゆる》しがたい
何《な》んの悪を打たうとするのか。
また、そなたはアトラス王が
世界を背中に負つてゐるやうに、
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