てはなりません。正当なる結婚の下に夫婦となり、正当なる父母の間に子女を教育してこそ文明人の根本精神に協《かな》うのですが、その位の事理は今更識者の注意を受けなくても只今の女子は十分に知っております。そういう結婚を致したくても男子側の貧乏なために不可能であるのが事実だとすれば、女子はやむをえず独身の状態にいて自活の方法を講じ、自然男子と職業を争うような場合にも立至ります。以前は男子に縋《すが》って男子の財産や収入の消費者であれば衣食住の安全を得たのに反し、今日は四囲の事情に余儀なくせられて、女子が自己の力で生活し父母兄弟をも養って行くという形勢になって参りました。

 これは現在の社会組織と経済事情とから起って来る自然の大勢で、悲惨といえば悲惨の至《いたり》ですが、我我婦人はこの大勢に対し、幸《さいわい》な事には教育の御蔭《おかげ》で一千年以来失っていました智慧と勇気とを恢復《かいふく》し、「我も人である」という自覚の下に女子の職能は単に妻として、母としてのみでなく、精神肉体両方のあらゆる労働に由《よっ》て、男子との協同生活が豊かに出来る事を知りましたから、譬《たと》い結婚は不可能である
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