にしても、その他の文明事業において意義ある自己の生を営み、人類のために貢献しよう、禍《わざわい》を転じて福としようという努力心を振い起すに至りました。結婚の困難な現代に処する婦人の覚悟として、これは甚だ立派な態度、健気《けなげ》な措置《そち》と申す外はない。それで今日独身で立とうという女子があれば、やむをえない事情からの覚悟であって、決して結婚を嫌っているのではないのです。娘の心を理解せず世態の大勢に通ぜない親たちは、一概にこれを我儘《わがまま》だといって、偶《たまた》ま嫁に貰《もら》ってくれる口があれば、その配偶者たる男子の人格も研究せず、わが娘をば厄介者を追払うようなつもりでその男子に押附けようとする風がありますけれど、そういう不安と不幸との予知せられる結婚に盲従するには今の女子は余りに聡明になっております。親が愛してくれるよりも幾倍か自分を愛重《あいちょう》する事を心得ているのが今の我我婦人です。

 勢よく流れる水はいくら防いでも何処《どこ》かへ捌《は》け口を見附ける如く、妻として母としての幸福を得がたい今の女子の或者が翻って他に自分の生活を求めようとするのに何の不思議もない。
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