顔ですけれど、よく流行りましてね。』
私は自分が大きく点頭いたことを気の毒に思ひました。
『さうですから逃げ出しました時にはまだ指輪なんかも持つて居ましたのですよ。宮島に一月隠れてまして、それから東京へ来て二月の間物を買つては食べ食べして居たもんですから、ひどい身になつたんですよ。それからYさんが来たんですが、あの人は初めから何も持つて居ないんでせう。私が自分で働いたり、人にお金を借りたりしましてね、それからまた二月なんですからね。』
『Y君の話では初めは外の人と国を出て来たと云ふぢやないか。その人と一緒になるつもりだつたのかい。』
『いいえ、いいえ。』
女は恐い目をしました。そして首を暫くの間振つて居ました。
『途中で道伴になつた人があるんですよ。その人が××へ帰つてすつかり話をしたもんですから楼主の方へ皆解つてしまひましてね、あの方も土地に居られなくなつたんですよ。けれど前から三月には社をやめて東京へ行くと云つてたんですよ。初めからくはしくお話しないと解りませんけれど、一昨年の十一月に私が初めて出ました晩に上つてくれた客があの人だつたんですよ。私は女郎買なんかは嫌ひだけれど、身
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