》へ行つてお話して来た。すつかりお話して来たなんか云つて居るのですよ。』
 先刻女中に渡して置いた末の子が泣いて居るのを私は知つて居ながら、立つて行つてはこの人に悪いやうな気がしてじつとして居るのでした。直ぐ梯子段の下まで来て居るらしいので、私は座を離れて行つて、
『伴れていらつしやい。』
 と云ひました。子供は涙の溜つた目で嬉し相に両親を見廻しながら抱かれて入つて来ました。
『女のお子さんなんですか。』
 子供には赤い無地のメリンスを着せてあつたのです。
『男ですよ。』
『まあ可愛らしい。』
 女は手を出して私の膝の上に居る子供をあやすやうにして居ました。よく笑ふ子ですから、きいきいと云つて居ました。
『Y君はよく東京の事情を知らないものだから、原稿さへ書けば直ぐ金になると思つて居たので、気の毒だ。』
『それですよ。書いてしまつたら屹度お金になるんだと云ふものですから、どうぞ書いて頂戴、私はその間どうでもしますつて云ひましてね。働いて居たんですよ。その間はYさんもさうですが私も毎晩二三時頃まで寝ませんでしたよ。』
『金は出来ないでもY君の仕事は真面目なことで、そしてきつと立派なものが
前へ 次へ
全15ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング