か。』
『私はもうそれはもとより、あの人だつてまあ別れると云ふやうな気にはなれないやうですね。私はあの書いた物がお金にならないからつて、いい加減に諦めを附けて、伴れて帰らうと思つたがどうしても居所が知れなんだとか何とか云つて一度帰つていらつしやい、私は一人で働いてあなたの運の向いて来るのを待つて居ますよと云ふのですがね、そんなことは出来ません、どうしても私には出来ないよと云ふのですよ。私は内職で十円位は取れるんですよ。あの人が此処のところで十五円位も取つて下さることが出来たらそれでいいんですがね。』
『あなたの身体をかたにして借りたお金の期限が明日きりだと云ふぢやありませんか、それはどうなさるの。』
 と私は云ひました。
『それは利子を払つてやればいいでせう。』
 女はそんなことは気にも留めて居ないと云ふ風でした。Yさんはそれがあるので死と云ふ言葉をよく使ふのでせうが、随分違つて居るものだと私は思ひました。
『そんな人に身体が遣れるもんなら、私は××へでも帰れるわけですよ。石にかじり附いてもあの商売は二度としようと思ひません。』
『内職つて何だね。』
 と良人は聞きました。
『襯衣や腹
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