巻を縫ふんですよ。襯衣は三銭にしかなりませんし、腹巻は六厘から一銭までなんですよ。それがね、一寸|一切《ひとき》り仕事が切れたものですからそんな風にお米も買へないんですよ。』
『感心だね。よく針が持てるね。』
『私は編物なんかでも八本針位は使ひます。さく子さん済まないね、あんなに贅沢をして居たのになんか、二時や三時まで起きて居るとYさんは云ふのですよ。醤油を一合買つたんですけれど、煮るやうな物は何も買へませんから黴《か》びてしまひましたよ。三升買つた糠で漬物を拵へてそればかり食べてますの。』
『Y君に仕事があるといいがね。』
『昨日ね、なんかの外交員が入ると書いてあつたとかで其処へ行きますとね、金を一円出さないと何処と云ふことは教へられないと云ふんですつて。一円が十銭もないと云つてYさんは帰つて来たんですつて。』
『そんなのに引つ掛つちやあいけませんよ。一円が取りたいからそんな仕掛をしてあるんですよ。東京と云ふ処にはいろんな人が居ますからね。』
『へええ。』
女は舌の先を円く巻いて一寸出しました。
翌日の夕方に良人が机の上で肱を突きながら、青桐の根の処を眺めて、
『Yが自分の甥か南
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