一概に婦人を崇拝したような小説の出るのを願うのではありません。世相を写すのが小説であるなら、女の弱点をも美所をも公平に取扱って戴いて、故意に弱点ばかりを見るというような不真面目《ふまじめ》な態度、態度というよりは作者の人格《ひとがら》を改めて戴きたい。弱点と申しても最《も》っと突込んで観察が深くないと、都《すべ》て男の方の勝手に作られた嘘の弱点になって、真実の女の醜い所が出て参りません。

 一体以前の小説には女の美しい点が沢山書いてありますが、それが私どもから見ると案外女の矯飾《きょうしょく》な弱点を男が美点だと誤解している場合があります。それを読んで女はこうすれば男に気に入るというような矯飾な工夫を増長して、自然内心では男を甘く見るという事も少くないと存じます。これと反対に、少しの弱点を捕《つかま》えてそれが女の性格の全部のように書いてある近頃の小説などを見ては一層|慊《あきた》らなく思います。以前のは一概に女の前に目も鼻もなくなって書かれた小説、近頃のは机の上で外国の小説などから暗示を得て書かれた小説、共に世相の真実には遠《とおざか》っておるかと存じます。私には空想とか想像とかで
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