産屋物語
与謝野晶子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)雛《ひな》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一大|功績《てがら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#下げて、地より1字あきで]
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雛《ひな》の節句の晩に男の子を挙げてまだ産屋に籠《こも》っている私は医師から筆執る事も物を読む事も許されておりません。ところで平生《ふだん》忙《せわ》しく暮しておりますので、こう静かに臥《ふせ》っておりますと何だか独りで旅へ出て呑気《のんき》に温泉にでも入っておるような気が致しますし、また平生《ふだん》考えもせぬ事が色色と胸に浮びます。お医者には内所《ないしょ》で少しばかり書きつけて見ましょう。
妊娠の煩《わずら》い、産の苦痛《くるしみ》、こういう事は到底《とうてい》男の方に解る物ではなかろうかと存じます。女は恋をするにも命掛《いのちがけ》です。しかし男は必ずしもそうと限りません。よし恋の場合に男は偶《たまた》ま命掛であるとしても、産という命掛の事件には男は何の関係《かかわり》もなく、また何の役にも立
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