努力すればその放恣《ほうし》を防ぎ得るものであろうと私は想像する。一婦を守らずに娼婦に戯れることは男の理性の不明、意志の弛緩《しかん》として男みずから恥ずべきことであるのみならず、その妻の愛と貞操を凌辱《りょうじょく》するものであり、子孫の徳性と健康とを破壊するものである。男にこの事の反省を促すことは学者、教育者、社会改良家の責任であるが、国家もまた法規を設けて或程度までその責任を分って好かろうと思う。この意味から私は近く政府が学生の売淫を取締ろうとする以上に、有妻の男の買淫をも厳しく取締って欲しい。在来は私娼の現行犯を発見した場合に政府はその娼婦を罰して需要者たる男を寛仮した。もし有妻の男の買淫者に限ってその氏名を公示するようにしたなら、それらの男子に対する一種の有効な制裁となるであろう。有妻の男の買淫を制裁することは、娼婦発生の根本原因の一つを刈除することであり、それだけ娼婦の需要者を減じて、娼婦の営業の過半を衰退せしめる所以《ゆえん》である。内務省が官人と政党との内務省でなくて、現代日本人中の進歩した文明思想を代表しようとする意気のある内務省であるなら、これくらいの英断を行って欲
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