衛生的に人類を毒するものであることはいうまでもない。この意味において主張せられる廃娼説の正しいことは何人《なんぴと》も認める所である。しかし廃娼説を実行に移そうとすると、娼婦の発生するいろいろの原因から先ず絶滅して掛らねばならないことに何人も気が附く。そうしてそれらの原因が現在の文明程度において一朝一夕に絶滅し得られるものでないことを実証的に知る時は、何人も甚だ遺憾ながら娼婦の存在を或程度まで寛仮《かんか》せねばならないことに一致するのである。
そこで廃娼説は一転して存娼説となり、存娼説は公娼を存して置くか、私娼を存して置くかの二つに分れる。同時に娼婦の発生するような根本原因を出来るだけ刈除《かいじょ》するために社会組織の改善がますます必要になる。社会組織の改善を眼中に置かない存娼説は在来の素朴な廃娼説と共に最早|迂濶《うかつ》の論議たるを免れないように私は思う。
私は有妻者にして公私の娼婦を買う男の尠くないことを知っている。それらの男の性欲の過剰と好新欲とは、男自身に反省して克己と節制の習慣を作ると共に、その旺盛《おうせい》な性欲的能力を他の労働もしくは精神的作業に転換するように
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