私娼の撲滅について
与謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一木《いちき》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)商売|仇《がたき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地より1字上げ]
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 一木《いちき》博士を主務大臣とする内務省が突如として私娼絶滅の実行に取掛ったことは最近の奇異な現象である。私はこれについていろいろのことを考えて見た。
 娼婦とは奴隷の一種である。経済上の独立精神と独立能力との麻痺した女が、良心と肉体とを男子に捧げて財物と換えることが娼婦の職業である。
 こういう不徳な職業の起源を尋ねることはむずかしい。それは渺茫《びょうぼう》として歴史以前の雲の中に隠れている。唯《た》だ人類がなにがしかの文明を持つ時代に入って後に発生した現象であることだけは、現に最も素朴な男女関係を保存しているらしく見受けられる或種の土人間に売淫を職業とする女の絶無なのに考えて仮定せられる。
 男には強健な体質を持っている限り、そうして克己的の節制を加えるだけの理性と意志の微弱である限り、一婦との接
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