触に甘心しておられないような性欲の過剰がある。また体質の如何《いかん》にかかわらず他の新しい婦人との触接に由って享楽しようとする欲望、或学者のいわゆる性欲上の好新欲が男にある。
女の性欲は概して消極的、受動的である。少くも男のようにやむにやまれないような強烈な自発がない(かようなことは在来の習慣として女の口から述べることを憚《はばか》る所であるけれど、私は人間の真実を研究する必要から押切って言おう)。殊に純潔な処女にあっては性欲の肉体的自覚は全く眠っている。異性に誘導されない若い女が性欲に対する好奇心は感じていても、徴兵適齢前の男が早くもその肉体的自覚に悩むような性欲の自燃自爆を見ることは全くない。病的としての特例はあるであろうが、一般の女についてこの性欲の消極性は真実であると私は思う。太抵の若い女は男に比例するだけの性欲を知らずに母となってしまう。そうして妊娠時や産後やにおいてかえって著しく性欲の減退を余儀なくされる。それがためにもまた男は一婦との触接に不足を感じる理由がある。
この性欲の不平等が概して男を反貞操的たらしめ、女を貞操的たらしめる重要な原因となる。男が一人の愛する女
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