を守るには概して肉体上の苦痛が伴う。少くも理性と意志を以て肉体を制御して性欲を転化するだけの克己的努力を要する。女が一人の愛する男を守るには、精神的にも肉体的にもそれが自然の経過である如く極めて容易である。若い男は性欲に由って自動的に堕落する。若い女は直接自らの性欲に由って堕落することはない。性欲に対する好奇心からも堕落するには到らない。若い女が性的に堕落するのは男の脅迫もしくは誘惑と、女自身の無力、無智、無財産、依頼心、遊惰性《ゆうだせい》と、女を今日のような弱者の位地に置く社会的事情とがその原因を成すのである。
 男女問題を論ずる多数の識者が、この男女の性欲の不平等を重要な一つの資料として商量しないのは迂濶《うかつ》の甚しいものである。娼婦の問題については特に重点をこれに置いて考えるのでなければ批評の正確を期しがたいであろう。
 娼婦がまだ発生しなかった蒙昧《もうまい》時代の男は、腕力で多数の女を脅迫して、その強烈な性欲と性欲の好新欲とを満足させていた。それは現に動物界で見るような状態であった。一夫多妻も、一婦多夫も、その様式こそ違え、共に女の性欲的欲求からでなくて、男の性欲的欲求
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