から脅迫的にしからしめた現象であった。この時代の女は性交の一事においてのみ男の暴力に身を任さねばならなかったが、経済的には確かに一個の人として独立していた。女もまた自己の労働に由って自己を生かせて行く人間であった。男と対等に生産的職業を持っていた。男から経済的に扶養せられることがなかった。かえって男との間に生れた子供を男の保護を借らずに養育して行くだけの実力を、女自身の労作に由って備えていた。丁度現に動物の雌が雄の扶養を求めずに自活しているのと同じ状態であった。おのずから一家の戸主は女(母)であった。男は性欲遂行の後に女を見捨てて去り、もしくは女と関係を続けているにしても一人の女の所に留らずに多くの情婦の家を寄食して廻った。
次の時代に入ると男は暴力を以て女の経済的独立の位地をも奪っていた。もう概して男(父)が家長であった。女は奴隷として男の性欲遂行に奉仕するばかりでなく、奴隷として男のために耕作、紡織、家事、育児等に役立たねばならなかった。女の労働から得る財貨は当然男の所有に帰するのであった。
そこで良心と肉体とを男に対して売ることを余儀なくせられる二種の女が生じた。第一種は長期
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