った。
しかし貞操とは女子だけの道徳であって、男子は毫《ごう》も自己の貞操を反省しないのみならず、依然として一夫多妻が行われ、屋外に数人の妻を持つのみならず、同一の家に二人以上十数人の妻を貯うる者も少くなかった。女子の権力は再び地に落ち、体《てい》のよい男子の奴隷となった。父の血統を重んずる所から、「女の腹は借り物」と蔑視《べっし》せられ、「子なき女は去る」といって遺棄する事を何とも思わなかった。
女子は折角《せっかく》芽を出し初めた自動的貞操を蹂躙《じゅうりん》せられて、再び元始的の外圧的貞操に盲従した。何の理由とも知らず、唯そういう運命の者だという迷信に諦《あきら》めを附けて日を送る女が世の中から貞女だと称讃される事となった。
男は自分の都合の好《よ》いように女を奴隷の位地に置いて対等に人格を研《みが》くことを許さなかった。愚に育てられた女は貞女の名を得て満足し、かくして今日に到った。
教育に由《よっ》てとにもかくにも理智の目の開《あ》きかけた今日の婦人が従来の外圧的貞操に懐疑を挟《さしはさ》み、貞操の基礎をあらゆる思想の方面と各自の実証とに求めねば満足が出来なくなって来た
前へ
次へ
全25ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング