私の貞操観
与謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)細緻《さいち》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)数層|甚《はなはだ》しい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#下げて、地より1字あきで]
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 従来は貞操という事を感情ばかりで取扱っていた。「女子がなぜに貞操を尊重するか。」こういう疑問を起さねばならぬほど、昔の女は自己の全生活について細緻《さいち》な反省を下すことを欠いていた。女という者は昔から定められたそういう習慣の下に盲動しておればそれで十分であると諦《あきら》めていた。
 けれども今後の女はそうは行かない。感情ばかりで物事を取扱う時代ではなくなった。総《すべ》てに対して「なぜに」と反省し、理智の批判を経て科学的の合理を見出《みいだ》し、自己の思索に繋《か》けた後でなければ承認しないという事になって行くであろう。
 感情をあながちに斥《しりぞ》けるのではない。女が唯一の頼みとしていた感情は、いわば元始的の偏狭《へんきょう》と、歴史的の盲動とで海綿状に乱れた物であった。その偏狭は時に
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