の純潔を尊ぶ習慣と、家庭の経済その他の事情と、階級的の自重と、この三つの理由から初めて女子が自動的に多くの男子と接することを嫌う思想、即ち貞操の萌芽《ほうが》ともいうものを生じたのであろうと思われる。
更に次の時代に入っては前代の反動と社会的事情とからして、男女の位地を再び復古の状態に到らしめた。即ち種族との競争の激甚となるに従って、戦士たる男子は時代の優者である。女子は殖産と小児の養育とのために忙殺せられて、最早|古《いにしえ》の如く男子と協力して戦闘に従事することは不可能であった。
また経済上の事情から多くの家族を同一の家に養うことが出来なくなり、新婚の男女は双方の親から譲られた資産を持寄って別に一家を建て、初めて夫婦共棲の制度を生ずるに到った。これと同時に戦士として時代の優者である男子が女に代って家長となり、父権が母権に代って子女を支配するに到ったのは自然の勢である。
父権が重んぜられかつ階級が益々《ますます》尊ばれるようになって、初めて父系の血統を神聖視する思想を生じた。女を独占しようとする男子は更に血統を乱すまいとする思想と相待って女子の貞操を一層きびしく要求する事とな
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